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高知地方裁判所 昭和24年(行)86号 判決

原告 今橋種吉 ほか一名

被告 須崎町農地委員会・高知県農地委員会・高知県知事

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、請求の趣旨

被告町農地委員会が昭和二十四年二月十日別紙目録記載の農地につき定めた買收計画竝にこれに対する原告等の訴願を被告縣農地委員会が同年五月二日附で棄却した裁決及び被告知事が同年七月十二日附の買收令書によつてした右農地の買收処分を取消す。又被告縣農地委員会が同年三月一日右買收計画に対し與えた承認は無効なることを確認し又はこれを取消す。訴訟費用は被告等の負担とする。

三、事  実

原告等訴訟代理人はその請求の原因として次のように述べた。

被告町農地委員会は昭和二十四年二月十日別紙目録記載の農地を自作農創設特別措置法第三條第一項第一号に該当する農地としてこれにつき買收計画を定め、原告等のこれに対する異議の申し立てを却下した。そして被告縣農地委員会は原告等が同年三月十八日提起した訴願を同年五月二日附で棄却する裁決をし、かつこれより先同年三月一日右買收計画に対し承認を與えた。しかして被告知事は同年七月十二日附で買收令書を発行して右農地の買收処分をした。ところで以上の行政処分には次のような違法がある。すなわち本件農地は原告種吉の所有であるが同人は二十数年前北米カナダに移住したためその留守中原告幸吉がその管理にあたつていたものである。その後原告種吉は昭和二十三年九月十五日志望によりカナダの国籍を取得し同時に日本国籍を失つた。そこで本件農地は買收計画の定められた昭和二十四年二月十日当時においては外国人所有の農地である。ところで外国人所有の農地については一九四八年六月十九日附の「海外居住者が日本において所有する不動産の自作農創設特別措置法に基く処分方許可申請に関する連合軍最高司令部より日本政府に対する覚書」があり、これに基き昭和二十三年七月五日附で農林省農政局長から「外国人及在外邦人所有農地の処理について」という通牒が発せられている。これによれば日本国籍を併せて有しない連合加盟国人及び中立国人所有の農地で昭和二十一年十月二十一日までに所有権移轉の登記が済んでいるものについてはその買收が禁じられている。そしてカナダはそのいわゆる加盟国であり、かつ原告種吉が所有権取得の登記を済ましたのは昭和六年以前のことである。そこで本件農地は右覚書竝に通牒の趣旨に照し当然買收を禁じられた農地である。しかのみならず自作農創設特別訴置法第五條第八号、同法施行令第八條、昭和二十三年農林省告示第二百五十四号第一項第二号からしても本件農地は買收できないものである。そこで被告等の本件農地の買收のための処分はすべて違法である。もつとも原告等はまだ買收令書は受領していない。なお、右の違法の外に被告縣農地委員会の承認については更に次の違法がある。この承認は昭和二十四年三月一日なされたものであるがこれは原告等が訴願を提起しそれに対し同被告が棄却裁決をする以前のことである。ところで自作農創設特別措置法第八條により訴願に対する裁決は承認の前提要件とされている。從つて右承認はその前提要件なしになされたものである。以上の次第であるから原告等は請求の趣旨記載のような裁判を求めるため本訴に及んだものである。(立証省略)

被告町農地委員会代表者竝にその余の被告両名指定代理人は「原告等の請求を棄却する」との判決を求め、次のように述べた。

原告等主張の事実中被告等がそれぞれ原告等主張のような買收計画を定め、訴願棄却の裁決をし、承認を與え更に買收令書を発行したこと、本件農地が原告種吉の所有であること、同原告が二十数年前北米カナダに移住したこと、原告等主張の通牒が発せられていること、原告種吉が本件農地の所有権を取得したのは昭和六年以前であること、被告縣農地委員会が承認を與えたのは訴願裁決をする以前のことであることは認めるがその余の事実は爭う。被告等は原告等主張の通牒の趣旨に從い本件農地の買收を行つたもので被告等の処分に何も違法な点はない。仮りに原告種吉がその主張の時日にカナダの国籍を取得して日本国籍を失い且つその主張の時日に所有権移轉の登記を済ましていたとしてもそうである。すなわち原告種吉は登記を済ました昭和六年当時は勿論その後の昭和二十一年十月二十一日当時においてもまた日本国籍を有する一在外日本人に過ぎず右通牒にいわゆる連合加盟国人又は中立国人のいづれにも当らない。從つて本件農地は右通牒によつて買收を禁じられた農地ではない。なお、自作農創設特別措置法第八條は訓示規定であるからその違反は承認の効力を左右するものではない。仮りに然らずとも承認は行政廳内部間の行爲であつて取消の目的とされるべきいわゆる行政処分ではない。被告等の処分に違法はなく原告等の本訴請求は失当である。

四、理  由

被告町農地委員会が昭和二十四年二月十日別紙目録記載の農地につき買收計画を定めたこと、被告縣農地委員会が原告等の訴願を同年五月二日附で棄却する裁決をし、かつ右買收計画に対し承認を與えたこと、そして被告知事が同年七月十二日附で買收令書を発行したことは当事者間に爭いがない。

しかして本件農地の所有者が原告種吉であり、同人は二十数年前北米カナダに移住したこともまた当事者間に爭いがない。そして同人が昭和二十三年九月十五日志望によりカナダの国籍を取得し同時に日本国籍を失つたことは成立に爭いのない甲第一号証に徴し明らかである。そこで本件農地はその買收計画が定められた当時は外国人である原告種吉所有の農地であつたといわねばならない。ところで成立に爭いのない甲第二、三号証によれば原告等主張のとおりその主張の覚書及び通牒によつて日本国籍を併せて有しない連合加盟国人及び中立国人所有の農地については昭和二十一年十月二十一日までにその所有権移轉の登記が済んでいるものの買收が禁じられていること、そしてカナダはそのいわゆる加盟国にあたることが認められる。しかしながら、本件において原告種吉が本件農地の所有権を取得したのが昭和六年以前であることは当事者間に爭いがないが、同人が同年以前ないしは遅くとも昭和二十一年十月二十一日までにその所有権取得の登記を済ましたとの事実はこれを認めるべき証拠が何もない。この点において本件農地は右覚書竝に通牒の定める要件を欠くのでその買收を禁じられたものといえない。しかしこの点をしばらく不問に付し仮りに原告等主張のとおりすでに昭和六年以前に右登記が済んでいたとしてもなお本件農地は買收を許されないものではない。すなわち右覚書竝に通牒及び自作農創設特別措置法第五條第八号、同法施行令第八條第三号に基づく昭和二十三年農林省告示第二五四号第一項第二号の趣旨とするところは当該外国人がその所有農地について自作農創設特別措置法に基く買收計画の定められる当時までにその身分を取得しておれば足りるというのではなくて遅くとも昭和二十一年十月二十一日までに当該外国人の身分を取得していることを要求しているものと解するのが正当である。つまり本件農地が買收を許されないものとなり得る場合は原告種吉が昭和二十一年十月二十一日までにカナダの国籍を取得し日本国籍を失つている場合であると考えるべきである。しかして本件がさような場合でないことは原告等の主張自体から明かであるからこの点の原告等の主張は採用できない。

次に被告縣農地委員会が原告等の訴願に対し棄却裁決をする以前にすでに本件買收計画に承認を與えた事実は当事者間に爭いがない。そして自作農創設特別措置法第八條において右承認は裁決のあつた後與えられるべき旨の規定があることもまた原告等主張のとおりである。のみならず右規定は決して被告等主張のように買收手続に関する單なる訓示規定と解すべきものではなくその違反は承認の効力に瑕疵を帶びさすものである。しかしながらこの承認なるものは上級行政廳としての縣農地委員会等がその下級行政廳である町農地委員会等に対し與える意思表示であつて行政廳相互間における内部的な行爲であり、それによつて国民の権利、利益が直接影響を受けるものではないから行政訴訟の目的となるいわゆる行政処分とはいえない。なお、被告縣知事のなす買收処分は買收令書を農地の所有者に交付することによつて行われるものである。しかるにその令書の交付がまだないことは原告等自らが陳述するところである。そこで本訴においては取消の目的であるいわゆる買收処分はまだ存在しないといわねばならない。

以上の次第であるから原告等の被告等に対する本訴請求はすべて失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十五條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森本正 安芸修 谷本益繁)

(目録省略)

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